昆布を出汁に使うとき、鍋の中に広がるとろみは、昆布に含まれるアルギン酸という多糖類によるものです。このとろみが、スキンケアにおいても重要な役割を果たします。Kelp Whisper Groveで処方開発を担当する中村 葵が、昆布エキスの肌への作用についてお話しします。
アルギン酸とは何か ¶
アルギン酸は、昆布・若布などの褐藻類の細胞壁に含まれる多糖類です。水に溶けるとゲル状になり、水分を保持する性質があります。食品では増粘剤として使われますが、スキンケアでは肌の表面に薄い膜を形成し、水分の蒸発を防ぐ働きが期待されています。合成ポリマーと異なり、海洋由来の天然成分であることが特徴です。
フコイダンの役割 ¶
もずくや若布に多く含まれるフコイダンは、硫酸化多糖類の一種です。抗炎症作用や保湿作用に関する研究が国内外で進んでいます。Kelp Whisper Groveでは、沖縄産もずくから低温抽出したフコイダン水溶液を化粧水とマスクに使用しています。低温抽出にこだわるのは、高温処理によってフコイダンの分子構造が変性するリスクを避けるためです。
食品グレードの原料をスキンケアに使う理由 ¶
市販のスキンケア製品に使われる海藻エキスの多くは、工業グレードの原料から抽出されています。Kelp Whisper Groveでは、食品として販売できる品質の昆布・もずくのみを原料として使用しています。これは安全性の担保という意味もありますが、それ以上に「口に入れても安心なものだけを肌に塗る」という処方哲学から来ています。
5成分以下の処方にこだわる理由 ¶
成分数が少ないほど、肌トラブルの原因を特定しやすくなります。多成分処方では、どの成分が肌に合わなかったのかを判断することが難しい。Kelp Whisper Groveの処方は、昆布エキスまたはフコイダン水溶液を主成分とし、グリセリン・精製水など最小限の補助成分のみを加えています。成分表を読んで、すべての成分の由来を説明できる処方を目指しています。
アトリエでの、ある失敗から ¶
正直なところ、創業して間もない頃は失敗ばかりでした。2019年の夏、低温抽出にこだわるあまり加熱を控えすぎて、仕込んだ昆布エキスが数日でにごってしまったことがあります。食品グレードの原料を使っているからこそ、保存の管理は思っていた以上に繊細で、温度も時間も、上田のアトリエで何度も記録を取りながら手探りで覚えていきました。今では一度に作るのは200本までと決めていますが、これも「自分たちの目が届く量しか作らない」という、その頃の反省から来ているのだと思います。
以前、お客さまから「成分表のアルギン酸って、何からできているんですか」と尋ねられたことがありました。当たり前のようでいて、こうした問いはとても大切だと感じています。成分表は、後ろにいくほど配合量が少なくなる決まりになっているのですが、ただ量を読むだけでなく、その一つひとつがどこから来た成分なのかを自分の言葉で言えること。私たちが5成分以下にこだわるのは、結局そこに行き着くのだと思っています。
昆布エキスの作用は、まだ研究途上の部分も多くあります。Kelp Whisper Groveでは、過度な効能訴求をせず、原料の特性を正直に伝えることを大切にしています。今季のコレクションは、製品ページからご覧いただけます。